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【備忘録】

【備忘録】

故あってこちらに。

たぶんネタバレはないです。

(5月に流れた公演について)

※※※※

最初の構想では、考古学者のおっさんが玉山古墳を調査する為に四倉に降り立つみたいな話だった。

山間の街を想像していたおっさんは、降り立った街の潮の匂いに面食らいながらまず最初に海の方へ、そして大回りしながら山の方へさまよっていく。

調査の為に自転車も買ったが、想像以上にこの地区は広く、しかも複雑だった。調査は一向に進まず、遠く離れた都市と往復を繰り返し、奥さんに四倉という街の不思議と、そこで出会った様々な人々の話をする、みたいな感じで考えていた。

この話を組むに当たって、一番最初にいわき駅から常磐線に乗って四倉に向かった。土曜の昼だったが、常磐線はまさに人がおらずスッカスカであった。僕の他に駅に降りた人は3人だけだった。

暑い夏の日で、暗い駅を抜けて最初に見たのは高くて青い空だった。ああ、海の街だと思った。商店街を抜けて、神社を廻り道の駅に出て山塩ラーメンを食った。しばらくは歩行者天国があった場所を歩いたり、今は崩れてしまったお寺さんに登ったりした。数年前に復活した四倉音頭の照明を手伝った空き地も横切った。さびれた街だと感じたが、穏やかで心地良かったし人の気配が行き交っていた。その日は海ばかりを見て帰った。帰りの電車もスッカスカだった。

2度目は車に乗って鉱山や古墳を目指したがさんざん道に迷った。もらった資料の地図が古すぎて場所がよくわからなかった。戸田を廻った際に、菊の花の異様な多さに驚いた。「菊が好きなんだな」と馬鹿みたいな感想を持っていたが、栽培していたらしいともらったインタビューを読んで初めてそうと知った。港町以上に里はさびれて静かだったが不思議と人の気配はした。誰もいない校舎にすらそれはあった。無人の恵日寺にも気配を感じた。数年前に別の企画の為に訪れたお寺さんで、そのとき平将門の娘ゆかりの寺と聞いたが、まさか相馬古内裏のあれとは思わなかった。近くにあったお墓はガーデニングみたいな感じで可愛くデコられていた。カタナシだなと感じたが、それはそれで愛着も感じた。古墳が近くにあったとはこの時はわからなかった。

3度目に来たのは年末だった。ひたすら寒い日で、この日は古墳を目指していた。この頃、メンバーに高校生と若い女の子とテラシマさんが加わるからそれを想定して話を組んで欲しいと話があり、内心いろんなものがガラガラと崩壊して行く音を聴いていた。古墳は静かにそこに寝そべっていた。廃校になった、直前に来ていた大野小が近くにあったことを初めて知った。何かわからないが運命を感じた。

最初の顔合わせが直後にあり、計算はさらに狂った。この段階で「冴えない考古学者と妻」の構想は追い出すほか無く、また「女子大学生二人の旅」という構成にも待ったが掛かった。参加する男子高校生を直に見た時、そして彼から「本格的に芝居はできません」とはっきり言われた時に、可能な限り短い登場時間で鮮烈な印象を与える役割を考えねばならぬと頭をフル回転させた直後、前日に行った古墳が頭をよぎった。

予定は確かに狂ってはいたが、どこかで新しい扉が開いたような感じもした。

今回受けていたのは脚本だけだった。他にやっていることがあったし、メンバーは十分揃っていたし、何より仕事が忙し過ぎて到底不可能だと見積もりもあった。案の定仕事には相当苦しめられた。だがなんとか、台本さえ書ければ今回は勝ちだと思っていた。

世の中は本当にうまくいかない。

教師は当初女性を想定していた。このキャラクターは奇妙な友情を感じていたある女性をモデルにして描いた。彼女のエッセンスは、次の公演に登場する登場人物から溢れたもので構成されていた。稽古の兼ね合いから、「彼女」を自分でやらなければならなくなったことに内心途轍もない抵抗があった。このタイミングで先の男子高校生がコロナの為に参加辞退が告げられており、彼の為に用意した役もまた引き受けざるを得なかった。結果は散々であった。主人公を演じてくれた女性は若く才能があったが、中途半端な状態の俺と組まされたことは間違いなく悲劇だった。初めて仕事を辞めるか真剣に悩んだ。彼女には本当に申し訳ないことをした。

幸いなことに、公演は5月に延期が決まった。おそらくそれまでには、僕よりもう少し余裕があり、もっとマシな役者が現れ、うまく行かなかった部分をより良くしてくれるんじゃないかと期待している。僕が見てきてやっとこさ書き起こしたつたない四倉の風景を、もっとマシに演じてくれるんじゃないかと期待をしている。あの鮮烈な古さと新しさ、山と海、街と人とが結ばれた美しく懐かしい街を、人々に魅せてくれるんじゃないかと。それを期待している。

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